叫んだ夜

家族編

中学2年のときだったと思う。

いつもの日常だった。

部活が終わり、夕刊を配達し、自宅へ向かう。

家の近くまで来たとき、父と兄の怒鳴り声が聞こえた。

母の「ちょっとやめて」という声。

姉の声も混じっている。

慌てて玄関を開けた。

茶の間には物が散乱していた。

母が父を抑え、姉が兄を抑えている。

父以外、みんな泣いていた。

世間体を気にする父。

不登校の兄。

理由は聞かなくても分かった。

どちらが先に仕掛けたのかも分からない。

でも、なぜこうなったのかを知る必要もないと思った。

とにかく止めるしかない。

男のオレが入ったことで、父を強引に抑えた。

少し落ち着いた瞬間、兄が家を飛び出した。

兄が精神的に強くないことは、家族みんな知っていたと思う。

最悪の状況が頭をよぎった。

外は真っ暗だった。

右か左かも分からない。

夢中で叫んだ。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

恥ずかしい。

近所迷惑。

そんなことは一切考えなかった。

もし兄に何かあったら、

オレは一生後悔する。

この声が届けば、

踏みとどまってくれるかもしれない。

弟がこれだけ心配していると、伝われば。

姉も同じことを考えていたのだと思う。

2人で必死に探した。

しばらくして、

兄はどこかから出てきた。

「大丈夫だ。」

怒っているような、

諦めているような、

何とも言えない表情だった。

あのときの「大丈夫」の言葉の意味を、

あれほど深く考えることは、

もう一生ないかもしれない。